「第3章:主な医薬品とその作用」の7回目!
胃腸鎮痛鎮痙薬
- 胃腸の痛みは、器官が痙攣することで起こります。
- 胃腸鎮痛鎮痙薬に配合される主な成分は、抗コリン成分、パパベリン塩酸塩、局所麻酔成分、生薬成分などがあります。
1)代表的な鎮痙成分、症状を抑える仕組み、主な副作用
抗コリン成分
消化管の運動は副交感神経系の刺激によって亢進するため、
働きを抑えることで、
- 胃痛
- 腹痛
- さしこみ
を鎮めるほか、
胃酸過多・胸やけに対する効果も期待できます
胃腸鎮痛鎮痙薬に配合される抗コリン成分は、
- メチルベナクチジウム臭化物
- ブチルスコポラミン臭化物
- メチルオクタトロピン臭化物
- ジサイクロミン塩酸塩
- オキシフェンサイクリミン塩酸塩
- チキジウム臭化物
生薬成分として、ロートエキスが用いられることもあります
抗コリン成分の副作用
抗コリン成分の作用は消化管に限定されず、
- 散瞳よる目のかすみ
- 異常な眩しさ
- 顔のほてり
- 頭痛
- 眠気
- 口渇
- 便秘
- 排尿困難
などの副作用が現れることがあります。
次のような点に注意しましょう
- 目のかすみや異常な眩しさを生じるため、乗物類の運転操作を避ける。
- 排尿困難、心臓病、緑内障の場合は使用前に医師などに相談する。
- 高齢者では基礎疾患を持つ場合が多く、慎重な使用が重要。
抗コリン成分の注意点
- ブチルスコポラミン臭化物
⇒アナフィラキシーショック - ロートエキス
⇒一部が母乳中に移行して乳児の脈が速くなるおそれがあるため、使用期間中の授乳は避ける - メチルオクタトロピン臭化物
⇒一部が母乳中に移行する
パパベリン塩酸塩
消化管の平滑筋に直接働いて胃腸の痙攣を鎮める作用を示すとされます。
胃液分泌を抑える作用はありません
抗コリン成分と異なり、
- 自律神経系を介していないが
- 眼圧を上昇させる
緑内障の診断を受けた人は使用前に医師などに相談が必要です
局所麻酔成分
消化管の粘膜および平滑筋に対する麻酔作用による鎮痛鎮痙の効果を期待して、
- アミノ安息香酸エチル
- オキセサゼイン
が配合されている場合があります。
痛みが感じにくくなることで状態悪化を見過ごすおそれがあり、長期間の使用は避けることとされています
局所麻酔成分の注意点
- アミノ安息香酸エチル
メトヘモグロビン血症を起こすおそれがあり、6歳未満の小児への使用は避ける。 - オキセサゼイン
オキセサゼインは妊婦や、15歳未満の小児の使用は避ける。
オキセサゼインは胃液分泌を抑える作用もあり、鎮痙薬と制酸薬、両方の目的で使用されることがあります
生薬成分
鎮痛鎮痙作用を期待して、
- エンゴサク
- シャクヤク
等が配合されている場合があります。
※エンゴサク(ケシ科のエンゴサクの塊茎)
2)相互作用、受診勧奨
相互作用
胃腸鎮痛鎮痙薬に配合されている成分
胃腸鎮痛鎮痙薬に配合されている成分は、胃腸以外に作用を示すものがほとんどです。
複数の胃腸鎮痛鎮痙薬が併用された場合、
- 泌尿器系
- 循環器系
- 精神神経系
に対して副作用が現れやすくなる。
胃腸鎮痛鎮痙薬を使用している間は、他の胃腸鎮痛鎮痙薬の使用を避けることとされています
抗コリン成分
抗コリン成分は、かぜ薬、乗り物酔い防止薬、鼻炎用内服薬にも配合されている場合もあります。
抗コリン作用を併せ持つ成分との併用された場合、抗コリン作用が増強され
- 排尿困難
- 目のかすみや異常な眩しさ
- 頭痛
- 眠気
- 口渇
- 便秘
などの副作用が現れやすくなります。
受診勧奨
- 痛みが次第に強くなる
- 痛みが周期的に現れる
- 嘔吐や発熱を伴う下痢や血便
- 痛みが30分以上続く場合
場合には、受診などの対応が必要です。
原因不明の腹痛に、安易に胃腸鎮痛鎮痙薬を使用するのは好ましくありません
胃腸以外に生じる腹部の痛み
血尿を伴って側腹部に痛みが生じたときは、腎臓や尿路の病気が疑われます。
これらについて、胃腸鎮痛鎮痙薬を使用するのは適当ではありません。
下痢に伴う腹痛
下痢に伴う腹痛については、基本的に下痢への対処が優先され、胃腸鎮痛鎮痙薬の適用となる症状でありません。
下痢を伴わない腹痛
下痢を伴わずに痛みを感じる病気としては、腸閉塞やアニサキス症があります。
小児では、内臓に異常がないにもかかわらず、へその周りに激しい痛みが現れることがあります。
長時間頻回に腹痛を訴えるような場合には、医療機関に連れて行くなどの対応が必要です。
その他の消化器官用薬
- 消化管に作用する特殊な薬には「浣腸薬」と「駆虫薬」の2種類があります。
- 「浣腸薬」は直腸内に直接注入されるものです。
- 「駆虫薬」は腸管内の虫体にのみ作用する薬です。
1)浣腸薬
浣腸薬
浣腸薬は、便秘の場合に排便を促すことを目的として、直腸内に適用される医薬品です。
剤形には、
- 注入剤(肛門から薬液を注入するもの)
- 坐剤
があります。
浣腸薬は、繰り返し使用すると直腸の感受性の低下(いわゆる慣れ)が生じて効果が弱くなるため、連用しないこととされています
浣腸薬の注意事項
便秘については、瀉下薬と同様、食生活等の生活習慣の改善が図られることが重要であり、浣腸薬の使用は一時的なものにとどめるべきです。
特に乳幼児では、安易な使用を避けるべきです
浣腸薬は一般に、直腸の急激な動きに刺激されて
- 流産・早産を誘発するおそれがある
妊娠中の女性では使用を避けるべきとされています。
受診勧奨
- 腹痛が著しい場合
- 便秘に伴い吐きけや嘔吐がある
⇒急性腹症の可能性がある
- 排便時の出血
⇒痔出血、直腸ポリープの可能性
どちらも医師の診療を受けるなどの対応が必要です
注入剤(浣腸薬)
浸透圧の差によって腸管壁から水分を取り込んで直腸粘膜を刺激し、排便を促す効果を期待して
- グリセリン
- ソルビトール
が用いられます。
用法の注意事項
- 薬液の放出部を肛門に差し込み、薬液を押し込むように注入する。
- 注入するときはゆっくりと押し込み、注入が終わったら放出部をゆっくりと抜き取る。
(人肌程度に温めておくと、不快感を生じることが少ない) - すぐに排便を試みると、十分効果を得られないため、便意が強まるまでしばらく我慢する。薬液が漏れ出しそうな場合は肛門を脱脂綿等で押さえておくとよい。
- 半量等を使用する場合、残量を再利用すると感染のおそれがあるので使用後は廃棄する。
人体に及ぼす影響
- 肛門部不快感
使用時の体調によっては肛門部に熱感、不快感を生じることがある。 - グリセリンによる影響
排便時に血圧低下を生じて、立ちくらみの症状が現れるとの報告がある。
肛門や直腸の粘膜が出血しているときに使用すると、グリセリンが血管内に入って、赤血球の破壊や腎不全を引き起こすおそれがある。
坐剤(浣腸薬)
用法の注意事項
- 坐薬が柔らかい場合には、冷やした後に使用する。
硬すぎる場合には、柔らかくなった後に使用する。
(無理に挿入すると直腸粘膜を傷つけるおそれがある) - すぐに排便を試みると、十分効果を得られないため、便意が強まるまでしばらく我慢する。
人体に及ぼす影響
坐剤の配合成分としては、
- ビサコジル
- 炭酸水素ナトリウム
なども用いられます。
炭酸水素ナトリウムは直腸内で徐々に分解して炭酸ガスを発生することで、直腸を刺激し排便を促します
2)駆虫薬
駆虫薬
- 駆虫薬は、腸管内の寄生虫を駆除するために用いられる医薬品
- 一般用医薬品の駆虫薬が対象とする寄生虫は、回虫と蟯虫
いずれも手指や食物に付着した虫卵が、口から入ることで感染します
- 回虫
孵化した幼虫が腸管壁から入り込んで体内を巡り、肺に達した後に気道から再び消化管内に入って成虫となる。
そのため腹痛や下痢、栄養障害等の消化器症状のほか、呼吸器にも障害を引き起こすことがあります
- 蟯虫
肛門から這い出してその周囲に産卵するため、肛門部の痒みやそれに伴う不眠、神経症を引き起こすことがある。
作用と使用方法
駆虫薬は腸管内に生息する虫体にのみ作用するため、
- 幼虫(回虫の場合)には駆虫作用が及ばない
- 成虫となった頃に再度使用しないと完全に駆除できない
再度駆虫を必要とする場合には、1か月以上間隔を置いてから使用することとされています
注意事項
- 駆虫薬は、一度に多く服用しても駆虫効果が高まることはなく、かえって副作用が現れやすくなるたえ適正に使用されることが重要。
- 消化管からの駆虫成分の吸収は好ましくない全身作用(頭痛、めまい等の副作用)を生じる原因となるため、極力少ないことが望ましい。
- 食後の服用では駆虫成分の吸収が高まるため、空腹時に使用する。
- ヒマシ油を使用すると腸管内で駆虫成分が吸収されやすくなるため、ヒマシ油との併用は避ける必要がある。
代表的な駆虫成分
サントニン
回虫の自発運動を抑える、虫体を排便とともに排出させます。
服用後、一時的に物が黄色く見えたり、耳鳴り、口渇が現れることがあります。
サントニンは肝臓で代謝され、肝臓病の診断を受けた人では、症状の悪化の恐れがあります
カイニン酸
回虫に痙攣を起こさせ、虫体を排便とともに排出させます。
カイニン酸を含む生薬成分として、マクリ(フジマツモ科のマクリの全藻を基原とする生薬)が配合されている場合もあります。
パモ酸ピルビニウム
蟯虫の呼吸や栄養分の代謝を抑え、殺虫作用を示します。
赤~赤褐色の成分で、尿や糞便を赤く着色することがあります。
ヒマシ油との併用は避け、脂質分の多い食事やアルコール摂取は避けるべき!
ピペラジンリン酸塩
アセチルコリン伝達を妨げて、回虫及び蟯虫の運動筋を麻痺させ、虫体を排便とともに排出させます。
副作用として痙攣、倦怠感、眠気、食欲不振、下痢、便秘などが現れることがあります。
肝臓病・腎臓病のの診断を受けた人では、副作用を生じやすくなります
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